田口 智章

小児外科と国際協力

田口 智章(日本小児外科学会会員 九州大学医学部小児外科)

小児外科と国際協力

わたしは開発国の小児外科医療に少し関わった経験があるので紹介します。とくにアジアの開発国(developing country)では、子供の数が多いため、小児も外科もカバーできる小児外科医は重宝される存在です。わたしはよく小児外科医のことを、臓器別に細分化していく外科医療の中で、いろんな臓器をカバーできるのでThe Last General Surgeonと呼んでいますが、まさにdeveloping countryではそれが要求されます。わたしが経験したパキスタンのイスラマバード小児病院、ならびにカンボジアの国立小児病院では、小児外科手術の中に消化器や呼吸器以外に整形外科や脳外科や口腔外科や形成外科の一部が含まれていました。現在小児外科の専門医の取得には基本領域である外科専門医の取得が必須であるので有用です。またdeveloping countryでは外傷、熱傷、外表奇形など、見ただけで即診断がつく体表の病気がまず外科医のもとにやってきます。そういう意味では「総合外科」の修練になります。

イスラマバード小児病院

日本政府がパキスタンのイスラマバードに小児病院を建設し、5年間は人的な協力を継続するというJICAのプロジェクトの5年目の1990年に参加しました。2週間の滞在で表1のような手術を経験しました。

尖足の腱延長術や口唇口蓋裂や脳瘤など日本の小児外科では経験できないような手術に参加できました。手術自体は1日8:30から14:30までに25例くらいこなしていましたが(表2)、新生児の術後管理が全くできておらず、食道閉鎖の術後の新生児が手術室の入り口でしばらく放置され、翌日はもういなくなっているという状態でした。

ジャカルタ小児病院

2012年SIOP Asiaがインドネシアで開催された際に、九大に留学していたインドネシア大学の小児科医に乞われてジャカルタのインドネシア大学の小児外科に2日間立ち寄りました。胆道閉鎖症、肝内胆管拡張症、巨大な悪性腫瘍(肝芽腫、仙尾部横紋筋肉腫)など多くの児が待ち受けていましたので、この中で2日間の滞在で手術が可能な4例を選択し手術を行いました。さらに胆道閉鎖の末期の患児には生体肝移植を依頼されましたが、道具もなく、術前評価もなく、チームもそろっていないので無茶な話でした。さすがの私もひいてしまいました。

カンボジア国立小児病院

岡松孝男先生のお誘いで、岡松先生が立ち上げたカンボジア小児外科学会に2012年から3年連続参加しました。この病院は、日本の公益財団法人 国際開発救援財団(FIDR)というNPO法人が外科病棟と手術室を建築し、さらに給食がなかった病院に給食システムを構築していました。給食が出るようになって創傷治癒がよくなり外科の成績が向上していました。さらに手術室に付随した新生児の回復室までできており新生児外科に対する意気込みはすごいものがあります。わたしは新生児外科や出生前診断などの講義を行い、また地方の病院やヘルスセンターの視察にいき、予防接種と自宅ではないお産が普及しつつあるのを実感しました。また「水上生活者」をみてカルチャーショックをうけました(図)。でも人間のたくましさ、自然免疫の偉大さを感じ、ここではアトピーや花粉症はないだろうと感心した次第です。

学生諸君の中には熱帯医学研究会の部員など、開発国の医療に興味をもっている人が案外多いようです。彼らは何らかの形で国際貢献したいと考えており、そのツールとして医師でありかつ小児外科医であることは有利です。開発国は小児の人口が多く、外傷や熱傷や先天性の形態異常などが多いため、小児外科は重宝され活躍の場が多いといえます。また国際学会において英語で発表する若手の登竜門としてもカンボジア小児外科学会は有用です。卒後2年目の初期研修医が英語で20分間講演し、そのまま小児外科に入局を決めるケースもありました。若手の情熱をぶつけるいい機会のようです。

外部リンク

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