歴代理事長からのご挨拶

第22代理事長からのメッセージ

このたび伝統ある日本小児外科学会の第22代理事長を拝命致しました.

本学会のために尽くし,これまで育てて頂いた諸先輩や,ともに仕事をしてきた多くの先生方に少しでもご恩を返したいと思う一方で,本学会の果たす学術的,社会的な役割の大きさと,職責の重さを考えるとあらためて身の引き締まる思いでおります.理事長就任にあたり,新任のご挨拶とともに,本学会の今後の方向性について,私の考えを述べさせて頂きたいと思います.

本学会は創立から50年余を経過しました.わが国の小児外科が,欧米先進国に数十年遅れていると言われた半世紀前の黎明期から,治療成績,研究レベルともに飛躍的に向上させて,現在,国際的にも指導的立場に立っていることは,小児外科医の道に進んだ誰しもが非常に誇りに感じていることと思います.この間の関連諸分野の技術的進歩を受けて,小児外科医療,さらには小児医療全体の枠組みも大きく変わりました.今日の小児外科医には,高難度の周産期手術や小児がん手術,胆道手術,小児内視鏡手術などを行いうる高い専門性と,出生前から成人期にいたる外科的な問題に対応しうる幅広い総合性が求められています.学会を取り巻く環境に目を転じると,現在,日本の医学,医療は大きな変革期を迎えております.わが国においてもビッグデータに基づいた医療品質評価が浸透しつつあり,一方で高品質の医療を提供できる医師の安定的な育成のために専門医制度の抜本的な変革作業が進められております.しかしながらこれらの変化の中にあっても,手術により子どもの命を助け,子どもたちがより明るい未来への扉を開けるように,そして次世代の子どもたちが元気な生を受けられるように,学術の進歩と医療技術の向上を目指して研鑽を重ねるという本学会創設の基本理念に変わりはなく,それを見失ってはいけないものと考えます.本学会創設の基本理念を大切に引き継いで次代を担う後進へ伝えてゆくことを第一義とし,周囲環境の変化に鋭敏に対応しつつ,学会を機能させてゆきたいと考えております.

学会として現在,直面しているいくつかの具体的な課題と行動計画について以下にまとめます.
【専門医制度の再構築】
本学会では創設後間もない1966年より認定医制度の構築に取り組み,1981年の暫定指導医認定を皮切りに,認定制度の運用を開始しました.現在,専門医制度委員会による審査を経て専門医,指導医,認定施設の認定が行われており,その制度設計や運用は学会外からも高く評価されてまいりました.一方で構築から時間が経過し,制度の求める認定要件の中には現状と乖離してきた点も若干見られるようになっています.2014年5月の新専門医制度機構の発足にあたり,現在,新たな専門医制度の構築が学会に求められております.長年の実績をもつ従来の本学会の専門医制度からできるだけ混乱なく新制度へ移行できるように最大限の努力をしたいと考えますが,同時に本学会の専門医制度の中で旧弊化した部分をこの機会に徹底的に見直して改革を行いたいと考えております.
【小児外科医療体制の整備】
専門医の育成は小児外科医療体制の構築と密接に関わる問題ですが,小児外科専門医の至適な数や配置についてはこれまでの度重なる議論にもかかわらず結論に至っておりません.昨期理事会では仁尾正記前理事長の下,あらためて手術を受ける子どもの立場に立った至適な小児外科専門医,指導医の在り方や配置,育成について議論が続けられてまいりました.近年構築されたNational Clinical Databaseの
活用により,わが国の小児外科専門医の在り方に関する新たなデータの解析,研究も近い将来に可能になると思います.これらの議論やデータに基づいて,会員が徒に疲弊することなく,より良い労働環境で小児外科の臨床,教育,さらには研究に働ける体制を整備してゆくことを目指したいと思います.
【関連領域・行政との連携】
小児外科医療や小児外科医の育成は,単に本学会内での議論にとどまるのではなく,小児医療や外科医療全体を俯瞰した巨視的な視野で捉えるべき問題ではないかと思います.関連領域の諸学会と連携をより密にして,小児医療における様々な議論の場や活動にともに参画してゆくことは,本学会の重要な方向性であると考えます.同時に行政との連携を図り,母子保健医療や小児がん,難治性疾患に対する厚生行政においてアカデミアとしての役割を果たすことも重要であると思います.学会のもつ知的,人的資源を行政の場で活用することで,小児外科の専門性とアイデンティティを主張してゆきたいと考えております.
【学会の在り方の見直し】
学術研究における学会の役割に関しては色々な考え方がありますが,基礎的,臨床的研究の遂行にあたり,学会が研究基盤の構築を支援し,また倫理的規範の維持・徹底に働く必要があると思います.一方で学会の形態について,周囲の情勢を見極めて,より自由な活動を展開しやすく,発展性の大きな,本学会に相応しい法人形態への見直しを行っていきたいと考えております.今期理事会ではこれらの点に関する基本的な議論を重ねたいと思います.
【学術集会の国際性】
本学会の学術集会は,昨期理事会において提言されたように,日本国内にとどまらず,アジア全体から世界への情報発信の場として展開してゆくことが必要であると考えています.アジアを中心に国際的情報発信の需要を掘り起こし,その受け皿として本学会を発展させて行きたいと考えております.昨期理事会では学術集会の在り方やプログラムの議論をする機関の設置が提案されましたが,こうした場を通じて,本学会の国際的学会への発展性を模索したいと考えております.
【財政基盤の安定化】
学会の役割を果たしてゆく上で,学会運営の観点からは十分な学会の活動と会員サービスの維持・向上のための財政基盤を安定させることが求められております.眼前の問題のみにとらわれることなく,今後,長きに渡って学会を安定して運営しうる財政基盤の構築について喫緊で議論を深め,改革作業に着手したいと考えております.
以上のように,本学会の機能強化・発展と,それによるわが国の小児外科医療の充実にできるだけの努力をしてゆきたいと考えておりますので,会員諸氏はじめ皆様におかれましては何卒これまでと変わらぬお力添えとご指導をお願い申し上げます.

平成27年8月 日本小児外科学会理事長 黒田達夫


第21代理事長からのメッセージ

日本小児外科学会を代表してご挨拶申し上げます。

本学会はこのたび設立50周年を迎えました。日本の小児外科の始まりは欧米に50年ほど遅れた1950年代のことですが、その後の50年間で急速に発展し、現在では世界に誇る高い水準の小児外科医療を提供できる状況にまでなっております。これは諸先輩のたゆまぬ努力の賜物といえますが、また、本学会が小児外科学の発展と啓蒙に努めてきたこと、とりわけ他の学会に先駆けて認定医(その後の専門医)制度を整備して、積極的に質の高い小児外科医を育ててきたことも大きく寄与しているものと自負しております。

本学会は、現行の専門医制度上、日本外科学会を基盤学会とするサブスペシャリティ学会として位置づけられており、小児外科専門医の取得には、外科専門医を取得した後、新生児・乳幼児を含む多数の小児外科手術症例の経験と学問的な業績を積み、さらに難関の資格試験に合格して初めて申請できるという高いハードルが設定されております。

小児外科が外科の中でもごく特殊な狭い領域のみをカバーする診療科であると思われる向きがあるかもしれません。しかし現実は正反対です。胸・腹部の諸臓器を中心に、心臓大血管と脳脊髄を除くほとんどすべての臓器の外科治療を担当し、また、生まれたばかりの体重数百グラムの小さな小さなあかちゃんから小児期に外科治療を受けた50歳代以降の中高年者まで、年齢も体格も著しく異なる患者さんを対象としております。扱う疾患の種類も、先天奇形、各種後天性疾患、小児がん、外傷などさまざまですし、施設によっては臓器移植にも取り組んでおります。このように多様な患者さんを適切に治療するためには、洗練された手術手技に加えて、豊富な経験と幅広い知識、論理的な思考能力や洞察力・応用力などが問われることをご理解いただけると思います。ただし、小児外科医に求められるいろいろな資質の中でも私がもっとも重要と考えているのは患者さんに対する深い愛情と疾患克服への強い情熱です。本学会は以前からアットホームな学会といわれております。大きな学会がひしめく外科系学会の中にあって、決して会員数は多くはないのですが、小さな患者さんを愛する心優しい外科医の集団で、その目指す方向性がよく一致しているせいと感じております。

小児医療という切り口でみても、小児外科がその重要な一翼を担っていることは改めて申し上げるまでもありません。しかし、行政への働きかけなどの面で、小児診療に従事する関連各科の連携が必ずしも十分とはいえなかったように思われます。成人病や高齢者医療に重点が置かれがちなわが国の医療行政の中にあって、国の宝ともいうべきこどもたちの生命を守るためには小児医療関係者が一致して動かないと十分な声として響かず、結果的に幼い患者さんの不利益になるという観点から、小児期医療の関連学会間の連携を深めることがたいへん重要であると考えております。

さて、小児期に手術を受けた患者さんの中には何らかの問題を抱えて成長する方も少なくありません。わが国では患者さんが成人に達した後も小児外科医が継続して診療を行っている場合が多く、これには小児外科医の責任感と使命感に依っている側面があります。このシステムにはもちろんそれなりのメリットはあるのですが、果たしてこれが理想的な体制かどうかについては議論のあるところです。成人の診療科との連携が必要なことは容易に理解できるのですが、そのために解決すべき課題も少なくありません。すなわち小児期から成人期への移行(トランジション)の問題ですが、本学会としての立場を明らかにするとともに、関連する学会と連携してより望ましいシステムを構築すべく着手いたしました。

日本は少子化の時代を迎えておりますが、小児外科で扱う患者さんの数はむしろ増加傾向にあります。これに対して小児外科専門医の数は未だ十分ではなく、地域の周産期母子医療センターと呼ばれるところでさえ、小児外科専門医が勤務しているのはその中のごく限られた施設のみです。すべての小児の外科治療が小児外科専門医によってなされるべきであることは誰しもが望むところなのですが、残念ながらわが国の現状はそのような段階に到達しておらず、その責任の一端は本学会が担わなくてはならないと強く感じております。

小児外科の卒前・卒後教育の充実、National Clinical Databaseを活用した専門医の育成とその適正配置、中立的第三者機関が主体となる新たな専門医認定制度への対応、小児外科医の労働環境改善や男女共同参画・ワークライフバランスの適正化などを喫緊の重要課題として、現在鋭意取り組んでおります。

もうひとつお知らせがあります。本学会の機関誌「日本小児外科学会雑誌」が2013年第49巻よりオンライン化され、会員非会員を問わずどなたでも、どこからでも無料でお読みいただけるようになりました。この取り組みは、本学会としては大きな決断でしたが、私たちの機関誌をより多くの皆様にご覧いただくことがわが国の小児医療のさらなる発展につながるものと期待してのことです。どうぞ大いにご活用ください。

最後に世界に目を向けてみましょう。本学会発足当時から欧米の先進諸国との人的交流が盛んに行われました。わが国の小児外科医療がすでに世界的にも高水準にあることは冒頭にも記しましたが、それはこのような国際交流から生み出された結果であると考えております。先ごろ開催された本学会50周年記念式典に、世界中から大勢の高名な小児外科医がお祝いに駆け付けてくれたことは、私たちにとってたいへんうれしい出来事でした。これは、本学会が世界の小児外科医から愛され、親しまれ、そして期待されていることの証であり、さらに多くの領域について、世界に向けて最新の情報を発信し続けていくことを私たちは求められています。

一方、アジアに目を転じますと、多くの国々の医療水準はまだまだ厳しい状況が続いています。かつて私たちが欧米諸国から多くを学び今日を迎えていることを考えるなら、今度は私たちがこうした国々に貢献する番です。数多いアジアの国々に対応可能な貢献の形は限られていますが、より多くの若手医師たちがわが国の小児外科学に触れる機会を増やすような方向性を考えています。

小児外科診療はたいへんストレスの多い仕事ですが、その先には何物にも代えがたい報酬が待っています。それは私たちがもっとも愛する小さな患者さんたちの笑顔です。私はこの喜びをより多くの仲間たちと分かち合いたいと考えています。自己研鑽を積み、献身的に働く小児外科医たちが思い煩うことなく仕事に打ち込むことができ、そしてその中からさらなる喜びを見いだすことができるような環境を整備することが私たちの使命と心得ております。

本学会理事会構成メンバーと各種委員会委員長および多くの委員の協力を得て全力を尽くす所存ですので、会員の皆様、市民の皆様のご理解とご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

日本小児外科学会理事長 仁尾正記


第20代理事長からのメッセージ

平成23年7月22日に東京で開催されました日本小児外科学会理事会におきまして理事長に選出されました九州大学小児外科の田口智章です。新任の4人の理事を加えた8名の理事(田口、仁尾、濱田、韮澤、前田、北川、窪田正、松藤)、会長(上野)、副会長(岩中)、3名の監事(窪田昭、土岐、橋本)の理事会メンバーで、これから2年間日本小児外科学会(以下、本学会)の運営を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。以下項目別に抱負を述べ、ご挨拶に代えます。

1)日本小児外科学会50年を振り返って。
本学会は2年後に50周年を迎えます。諸先輩が戦後の混乱のなかにも小児外科医療の必要性を説き、小児外科というきらりと光る一輪の花を咲かせ、新しい分野を開拓して50年の歴史を刻んできました。この間、新生児外科を例にあげますと、当時死亡率が50%以上であったのが現在10%以下と、生存するのが当たり前になっています。このデータは日本小児外科学会が5年に1度実施している新生児外科統計がクリアカットに示しています。また小児がんの領域でも私が研修医の頃、手術してもほぼ全滅だった肝芽腫が、手術手技や肝移植や化学療法の進歩で80%以上が生存できるようになりました。小児がんの統計も悪性腫瘍委員会が小児外科の手術が関わる症例の登録のみならず5年後の追跡調査まで行っています。現在、本邦でいくつか小児がん登録事業が走っていますがフォローアップまできちんと行っているのは本学会の登録事業だけです。また他の学会に先んじて認定医制度を立ち上げ、現在はどの学会でも盛んに施行されている専門医制度の先駆けとなっています。これら日本小児外科学会の輝かしい歴史と業績を振り返り50周年記念事業を実施したいと考えています。

2)手術を必要とするこどもたちのために
小児外科は小児の一般外科で、脳や心臓などを除くすべての臓器の手術を担当しています。新生児の異常である腸閉鎖や鎖肛や肺嚢胞などからはじまり乳児の鼠径ヘルニア(脱腸)、停留精巣、陰嚢水腫、腸重積、胆道閉鎖・拡張症、外科的便秘、さらに幼児から学童の虫垂炎(もうちょう)、漏斗胸、小児がん、小児肝移植や小腸移植、さらに小児の水腎症や膀胱尿管逆流症などの泌尿器疾患や肺・気管支疾患など多岐におよんでいます。対象とする年齢は生まれてすぐの新生児から思春期の18歳くらいまで幅広くなります。こどもの手術は小児外科専門医によって行われるべきですが、まだ小児外科医以外の医師による手術が行われている場合があり、医療事故や医療訴訟となっているケースもあります。
本学会としては小児外科の教育と修練を積んだ小児外科専門医の手によってこどもの手術が適切に行われるように、全国の手術登録を行うNCDのデータと本学会が有するデータを照合することにより、手術を必要とするこどもたちが小児外科専門医の手で適切に手術されているか否かをチェックできることになります。そこでこの事業を本学会とNCDと共同で進め、小児外科医の適正配置を厚労省に提言したいと考えています。

3)小児外科専門医育成と卒前教育
小児外科専門医の数は、二次医療圏に小児外科救急や日常疾患に対応するのに最低2名、小児外科医15名有するハイボリュームセンターは全国15か所必要ですので、専門医は全国で800名は必要ですが現在わずかに500名しかいません。小児外科専門医育成が急務ですがそのためには医学生の卒前卒後教育において小児外科に触れる機会をつくることが重要と思われます。全国の医育機関のうち小児外科学講座があるのは約30%程度で、あとの医育機関では小児外科の講義や実習が十分に行われていないため医学生が小児外科を認識する機会が限られています。これが小児外科を志す若手医師が少ない原因と考えられます。学会として小児外科の認知度を上げる努力とともに卒前教育の標準化を提言していきたいと思います。

4)小児外科学会専門医のありかた
小児外科専門医は基本領域を外科専門医と定め2階建として進めております。小児外科専門医を更新すれば外科専門医を自動的に更新できるというprincipleで整備してまいりました。小児外科の手術手技の進歩という点からは外科学会は最も重要な学会です。しかし小児外科に患者さんを供給するのは小児科と産科であり、横断的学会である日本周産期・新生児医学会、日本小児がん学会、小児救急学会、小児栄養消化器肝臓学会などに小児外科医が積極的に参画し、大いに共存共栄していくことが重要と考えます。幸い、これらの学会には本学会の会員が理事などの役員として参加していますので理事会や委員会への参画で関係濃厚化を図り、小児外科医の技量をアピールし、色々な分野の病気をもつこどものために役立てればと思います。またこれらの学会との交流から小児救急や新生児の分野などもカバーできるようなグローバルな小児外科医の育成も考慮すべきではないかと考えています。

5)国際交流と国際貢献
現在、発展途上国では医療の恩恵をうけられず命を落としているこどもたちがたくさんいます。日本では救命できるのが当り前な病気なのに発展途上国では致死的になっているというお話をよく耳にします。本学会の会員の中にも発展途上国に自分から出向いて活動されている先生方がいます。現在、本学会ではトラベルグラントを設定し、発展途上国の小児外科医に本学会学術集会に招待し勉強の機会を設けています。今後、海外支援の経験豊富な先生方やNPO団体を通じて本学会としてなにができるか模索してみたいと思います。また現地の医師のみならずコメディカルの教育も含めた貢献ができればいいと思っています。

わたしは小児外科を志して本当によかったと思っています。小児外科医は比較的地味ですがこどもに優しく粘り強い人物が多いと思います。学会がアットホームなのも好感が持てます。最近この雰囲気が好きで門をたたく若い医師が増えています。みんなで日本のこどもたちがもっともっとよい医療を受けられるように本学会を盛り上げていきましょう。ご協力よろしくお願いします。

(文責:田口 智章)


第19代理事長からのメッセージ

平成21年6月に大阪で開催された日本小児外科学会理事会におきまして,理事長に選出されました東京大学小児外科の岩中です.田口副理事長をはじめとする各種委員会担当理事・委員長,監事ならびに委員の先生方のお力をお借りして,これから2年間日本小児外科学会の舵取りを務めさせていただきますので,どうぞよろしくお願い申し上げます.
産科医や小児科医不足が世間を騒がせていますが,外科医,特に病院に勤務する外科医の減少も大変深刻です.病院を去っていく外科医がどんどん増えた結果,残された外科医に当直翌日の手術や連続30時間以上の勤務などが当たり前のように課せられています.外科医自身の厳しい生活を近くで見ている医学生や若い研修医達は,外科医の修練期間が長いこと,実務に対する報酬が低いこと,訴訟のリスクが高いことなどの理由も加わって,外科学に興味を持っていても外科医への道を選択しなくなってきました.この様な状況の中で,若い医師の卵たちを小児外科へ導くためには,小児外科学の研究や臨床を通して小児外科学の持つ魅力を見せること,病んでいるこども達を何が何でも治したい,という熱意を維持させ夢を与え続けることが大切です.そのためには,若い医師の育成制度を確立すること,専門医の技量を適切に評価してもらえるようにすること,専門医の将来を保証することなどが不可欠です.また小児外科の領域では,女性医師の占める割合が徐々に増加し貴重な戦力になっていますが,妊娠・出産・育児に対する手だては極めて不十分であり,育児休暇から復帰する彼女たちの支援プログラムにも不備が目立ちます.私の在任中の2年間で,現在の専門医の置かれている状況を調査し,我が国には何人の小児外科医が必要なのか,小児外科医はどのような役割を果たさなければならないのか,小児外科医の配置(地域偏在)に問題はないか,などについて検討を重ねていきたいと考えています.
ところで皆さんは小児外科という医療分野をご存じでしょうか.小児外科医は,特殊な専門医であるように考えられがちですが,実は小児の一般外科医です.それ故,頭部や心臓などの一部臓器を除いてほぼ全身の多岐にわたる小児疾患を治療します.生まれつきの様々な異常,小児がん,炎症性疾患,外傷など,こども達の外科疾患の大半は私たちが担当します.また対象となるお子さん達は,数百グラムの赤ちゃんから70kgを超える思春期の中学生・高校生まで様々です.まだまだ治療に難渋する疾患も多く,新しい手術法や治療法など,研究せねばならないことはたくさんあります.古くは諸外国から新しい治療法などを輸入していましたが,今や我が国の小児外科の医療レベルは欧米にひけは取りませんし,これからは世界中の小児外科医療のリーダーシップを取るべく発信をしていく必要があります.
小児外科医は小児救急医療体制の枠組みの中で大変重要な位置を占めています.乳幼児の死因の第一位は不慮の事故です.また自分の症状をきちんと伝えられないこども達には,急性虫垂炎や腸重積症などの,放置すれば大変なことになる外科疾患は数多くあります.我が国の小児救急医療の不備は,しばしば新聞やテレビを賑わせます.我が国は1961年より国民皆保険制度を運用し,いつでもどこでも誰でも低コストで医療を受ける権利が保障されていますが,今やこの保障も危うくなってきています.こども達が育まれている地域では,どんなに田舎であろうと小児外科医は必要です.すべてのこども達を受け入れ,質の高い小児救急医療体制を構築するために,厚生労働省や小児内科領域の関係者達と理想的な体制作りをめざして協議を続けていきたいと考えています.
日本小児外科学会は,この様な山積する課題を一つずつ解決し,熱意のある若い小児外科医を育て,我が国のすべてのこども達に適切な外科医療を提供できるよう頑張っていきたいと考えていますが,そのためには充分な財政支援が不可欠です.小泉内閣以来の医療費抑制政策のもとでは,医療の進歩に伴う経費の増加に対しても充分な手当が無く,成人に比べ人件費のかかる小児外科・小児科などの小児医療部門は,すべての病院で不採算部門であり,病院のお荷物扱いです.小児の診療報酬を増額させ,小児医療を担当するすべての医療人がゆとりを持って診療にあたれるような仕組みを導入することや,小児患者の医療費負担を減らす補助金の増額などを行政にお願いせねばなりません.現内閣の提唱する医療費2200億円の削減などの医療費抑制政策に反対するとともに,こども達の健康と福祉の向上のためにさらなる予算獲得をめざしたいと考えています.
これらの日本小児外科学会の活動にご理解をいただき,病めるこども達の幸せのために,本学会会員のみならず市民の皆様からの益々のご支援・ご協力をお願いいたします.
(文責: 岩中 督)


第18代理事長からのメッセージ

日本小児外科学会理事長を高松英夫先生から引き継いではや一年が経過致しました.岩中副理事長をはじめ各理事,各種委員会委員長,委員の先生方の一致協力により,山積する諸問題に取り組んで参りました.昨年度は,厚労省から突然出された標榜診療科見直し案,診療関連死に関する厚労省試案を始めとした医療制度全般にわたる極めて大きな問題が持ち上がり,嵐の中での航海となりましたが,関係各位のご協力によりようやく一年が経過致しました.
おかげさまで,厚労省に申請していた「肝芽種に対する肝臓移植手術の保険適応」を本年4月から認めて頂くことができました.そもそも,肝芽種に対する生体部分肝移植術の保険適応は,平成16年に肝細胞癌を含む多くの肝疾患に対する生体肝移植の保険適応が認められた際に,同時に認められて然るべきでした.これが認められなかったために,切除不能な肝芽種に罹患している幼小児患児に対する移植治療は自費となり,ご家族にとって大変な負担でした.この度大変良い結果を得ることができ,強力なご支援を頂きました関係各位に心から感謝申し上げます.
日本小児外科学会は小児外科学の学術研究知識の交換などにより学術の振興と医療福祉の増進に寄与することを目的として設立されました.本年の重要な課題として,機関誌である日本小児外科学会雑誌に優れた学術論文が数多く投稿されるように取り組んでまいります.また医療に関する社会的環境はますます厳しくなってきています.近年小児の医療事故がたびたび報じられ,医師・医療機関に対するご家族の信頼は大きく揺らいでいます.日本小児外科学会といたしましては小児外科医療に携わる小児外科専門医の質を保証し,一般の人に理解して頂けるように,従来の研修指数に加えて,専門医に必要な手術経験数を定めました.さらに本年度は専門医認定制機構の求める整備指針に則って,専門医更新の要件整備を行ってまいります.
日本の小児救急医療の現状は社会的に大きな問題となっており,まさに崩壊の危機に瀕していると言っても過言ではありません.日本小児科学会が提案している「わが国の小児医療・救急体制の改革に向けてー小児医療提供体制の改革ビジョン」では,小児外科医の役割が明記されておりませんでした.日本小児外科学会は小児救急医療の改善のために,日本小児科学会,日本小児救急学会等と連携してこれに取り組み,小児救急医療体制に小児外科医の配置は必須であることを強調して参りました.小児外科医が積極的に小児救急に関わり,外科系小児救急医療のハブ(中心)の役割を果すべき時がきていると思います.そのため,従来の小児外科疾患に加えて外傷に対する治療を小児外科研修カリキュラムに取り入れる必要があります.日本小児外科学会は特別委員会として小児救急検討委員会を立ち上げ,小児外科研修カリキュラムにおける外傷を含めた小児救急に関するガイドライン原案の作成に取り組んでおります.
それにしても,現在日本の小児医療は危機的状況にあります.いろいろな要因が挙げられていますが,最も大きなものは小児医療の不採算性だと思われます.この度の平成20年度診療報酬改定で小児病院に幾分良い改定がなされたとはいえ焼け石に水の状態であり,小児医療の不採算性は変わっていません.日本における14歳以下の小児人口は14%,65歳以上の老人人口は18%とほぼ同じ人口構成でありますが,全医療費に占める割合は小児6.6%であるのに対し老人は51%となっており,小児に対する医療費は老人のおよそ1/8であります.このような不合理をそのままにしておいては日本の子どもたちは救われませんし,小児医療関係者が現場でどれだけ努力しても収支の改善は見込まれず,その結果として小児を取り巻く医療環境の縮小劣化が起こっております.
明日の日本を背負う子どもたちの医療環境を改善するために,日本小児外科学会が自らなすべき事につきましては引き続き努力をして参ります.さらに関連学会と協力して,小児に対する医療費の適正配分を国に求めて行きたいと存じますので,会員諸兄のご協力を切にお願い致します.
(文責: 伊川廣道)


第17代理事長からのメッセージ

小児外科学会を代表して一言ご挨拶を申し上げます.
少子高齢化社会をむかえ,こどもたちの命を守ることは今まで以上に重要なことになりつつあります.日本小児外科学会では,病気のこどもたちを守るために,外科治療が必要なこどもたちの治療は十分な修練を受けた小児外科医が担当すべきだと考え,小児外科専門医制度を発足させています.小児外科医とはこどもについて専門的な知識をもった外科医でありますが,小児外科医を目指す医師は,一般外科の修練を終え外科専門医の資格を得た後,小児外科の専門施設で一定期間小児外科医として定められた修練を受けます.そして資格試験に合格した後に初めて小児外科医となります.
こどもには成人にはみられない腸閉鎖症,鎖肛(直腸肛門奇形)などの生まれつきの病気やこども特有のがんである神経芽腫(しんけいがしゅ),腎芽腫(じんがしゅ),肝芽腫(かんがしゅ)などがあります.またこどもは大人の体をただ単に小さくしたものではなく,身体の構造や仕組みは大人とは異っています.こども,とくに新生児や乳児は成人と違った生理的特徴があり,手術前後の管理方法も成人とはかなり違っています.これらの特徴を把握することもこどもたちの病気を治す上で重要ですが,こどもたちが大人と違い,手術を受けてからもその後の長い人生を生きてゆかねばならないことを認識していることも大事な点です.手術の傷跡一つとってもこどもの人生に大きな影響を与えます.手術の結果がその子の長い人生を左右する訳です.また,病気によっては長い期間,(人によっては一生)お付き合いする必要が出てきます,そのようなことを考える外科医が小児外科医です.こどもが病気とたたかうために私ども小児外科医はこどもの外科の専門家としての力を発揮することだけではなく,患児本人,ご両親,ご家族とともに力を合わせて行きたいと考えております.
このホームページは,かけがえのないお子さんが手術を受けなければならなくなった際に,ご両親が病気のことを理解し,安心して治療が受けられることを願って作成したものです.2005年6月28日にリニューアルし,かなり利用しやすくなったのではないかと思います.できるだけ多くの情報を皆様に提供したいと考えておりますが,不備な点もあるかと存じます.多くの皆様にご利用いただき,ご質問やご意見があればお寄せいただきたいと思います.
(文責: 高松英夫)


第16代理事長からのメッセージ

こどもには胃がんや肺がんなどはありません.一方成人にはみられない腸閉鎖症,鎖肛(直腸肛門奇形)などの先天性疾患やこども特有のがんである神経芽腫(しんけいがしゅ),腎芽腫(じんがしゅ),肝芽腫(かんがしゅ)などがあります.またこども,とくに新生児や乳児は成人と違った生理的特徴があり,手術前後の管理方法も成人とはかなり違っています.このような理由から欧米では,第二次大戦前からこどもの外科治療を専門的に行う「小児外科」が外科の専門分野の一つとして発足しておりました.
わが国においても,欧米からはだいぶ遅れましたが「小児外科」を専攻する医師が現れ,昭和39年に日本小児外科学会が設立されたことを契機として,「小児外科」の診療,研究が本格化いたしました.各地に小児病院(こども病院)が設置され,一部の大学ではありますが「小児外科」が新設されたことも弾みになりました.
しかし残念なことに,まだこどもの外科を専門的に扱う「小児外科」が「小児科」と混同されたり,「小児外科」の役割が十分には御理解いただいてもらえないことがあります.繰り返しますが「小児外科」は病気の種類も身体の特徴も成人とは違うこどもを対象とした外科であり,一般には知られていない面もありますがすでに昭和53年には当時の厚生省から一般診療科として認められております.また昭和54年には外科系専門学会としては日本脳神経外科学会についで認定医制度を確立し,質の高い専門的な医療の普及に努力してまいりました.
このたび日本小児外科学会の理事長に選任されましたが,医療関係者だけではなく市民の皆様にも「小児外科」の役割と活動内容を御理解いただき,病気やけがに悩むこどもたちによりよい医療が提供できるように会員一同とともに努力いたします.なお日本小児外科学会は社会により開かれたものとするために,特定非営利活動法人・日本小児外科学会として新たな出発をすることが決定されております.どうぞ日本の未来を担うこどもたちを健やかに育てるためにもこどもの外科,「小児外科」に御支援,御協力をお願いいたします.
(文責: 山崎洋次)


第15代理事長からのメッセージ

大人の病気が内科と外科で扱われるように,こどもの病気も小児の内科(小児科)で診るものと,小児の外科(小児外科)で扱うものとがあります.私共小児外科医は,こどもの外科的疾患を専門に診療しています.対象となる年齢は,生まれたばかりの赤ちゃんから,乳児,幼児,16才未満の学童までと広い範囲をカバーしています.さらに病気によっては,小児から引き続いて大人になってもお世話させていただく場合もあります.
日本小児外科学会では,病気のこども達の幸せを守るために,こどもの外科的疾患は,十分な修練を受けた小児外科医が担当すべきだとして,小児外科認定医制度を発足させています.小児外科医をめざす医師は,一般外科の外科認定医の資格を獲得するとともに,一定期間の小児外科の特別な修練を専門施設でトレー ニングすることが義務づけられています.
その後資格試験に合格し,はじめて小児外科認定医となることができるのです.
生まれたばかりの赤ちゃんの手術は,小児外科の専門施設以外で行われることはまずありません.しかし,おこさんが少し大きくなって歩き始めた頃に,鼠径ヘルニア,陰嚢水腫,停留精巣,包茎などのありふれた病気のことで,どこを受診したらよいかご両親で迷われることがあると思います.
こどもは解剖学的にも生理学的にも大人とは異なった特性を持っています.これらの特性を十分理解している小児外科医の診療を受けることが,手術の適応を決め,手術を受ける上で,おこさんにとっては最善の策です.小児外科医はこどものこれからの長い人生のことまで考え,適切な治療をすることを心掛けています.
このホームページは,かけがえのないおこさんが手術を受けなければならなくなった際に,ご両親が病気のことを理解し,安心して治療が受けられることを願って,できるだけ多くの情報を提供するために作製したものです.
多くの方々のアクセスを願っています.
(文責: 大沼直躬)


第14代理事長からのメッセージ

日本小児外科学会を代表して一言御挨拶申し上げます.子供は私達の未来を担うかけがえのない,この上なく可愛い宝物です.
小児外科とは,このようなかけがえのない子供のもって生まれた障害,ないしは生後に生じた病気に対して,メスを持って(手術)治療する医学の専門分野です.
子供は大人のミニチュアではありません.多くの点で未熟である上,病気の種類も大きく異なります.子供の手術は,小さいだけに手技的に難しいのは勿論,未熟な子供の生理,病態をよく理解した上で,その手術前,手術中,手術後の麻酔を含めた管理が極めて専門的で難しいのです.従って小児外科は多くの点で大 人の外科と異なります.
子供の手術は,小児を専門にした麻酔科医による麻酔のもと,小児外科を専門とする外科医に手術して頂いてほしいと思います.大人では一般に容易とされる脱腸の手術でも,小さな子供では極めて専門的で難しいのです.そのサイズが小さければ小さい程その治療が難しいことは当然です.
最近お母さんのお腹の中にいる胎児のうちに超音波による検査によって病気が見つかります.また,極めて低体重(1000g以下など)で生まれた赤ちゃんが産科・新生児科の先生方の大変な御努力で,多く助かるようになりましたが,この様な赤ちゃんが手術を必要とした場合,手術は極めて難しいのです.
また,大人と違って子供には手術の後に成長しながらの60年,70年,80年といった長い人生があります.手術の結果は,その子供のその後の長い人生を左右するわけで,それだけ子供さんの手術後の長い将来の人生を考えた上での慎重な手術を必要とします.
私ども小児外科医は患者さんと御両親様と共に病気と闘うべく努力したいと思っております.このホームページは皆様が正しい治療を受けて頂くために便宜を図るべく,出来るだけ多くの情報を提供するため日本小児外科学会の学術委員会が作成したものです.まだ開始間もないものですので,不備な点もあろうかと思 いますが御利用頂けたら幸いです.
(文責:宮野 武)


第13代理事長からのメッセージ

日本小児外科学会のホームページを開設するにあたりまして一言ご挨拶を申しあげます.こどもはみんな健康で生まれ,すくすくと育っていくと信じ,また,そうあることを願っております.しかし,お母さんのお腹の中に居るときにちょっとしたことで病気になり治らないままでハンデイキャップを持って産まれてきたり,元気で産まれても知らないうちに病気になったり,事故にあったりします.昔は,こどもの病気,とくに外科的な病気は治療はもとより,診断さえはっきりしませんでした.しかし,過去50年くらいの間に小児外科学は素晴らしい進歩発展をとげ,たくさんの病気の原因の究明や治療法の開発が進み,単なる救命か らQOLを考えた治療が可能となっております.一方,このような高い水準の医療を行うためには,こどもと大人の違いを理解し,こどもの体や成長発育はいうまでもなく,こどもの病気について専門的な知識を持った外科医が診療に当たることが必要で,私たち小児外科医は日々研鑽を重ねております.お子さんの病気はご両親にとっては,とても心を痛めることですが,病気を治すためにはお子さんの病気のことを理解し,一緒に戦っていただきたいと思います.こどもの外科的な病気とはどんな病気なのかということや,どんな治療法があるのか,またどこで治療を受けることができるかなどの情報を提供するために,このホームページが役立 つことを願っております.
会員の皆様におかれましては,このホームページが会員の間で日々進歩発展する医学の情報の収集と提供を行うと同時に,他の学会や行政における小児外科の社会的認知度の向上を図ることや,また私ども医療関係者のみならず,一般の方々,とくに病気のお子さんをお持ちのご両親にも最新の情報を提供できるように したいと思っておりますので,ご協力をよろしくお願い致します.
(文責:水田祥代)

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