概要
腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は、小児に発生する代表的な腎臓の悪性腫瘍であり、神経芽腫、肝芽腫と並んで小児三大固形腫瘍のひとつに数えられます。小児に発生する腎腫瘍の約90%を占めており、主に乳幼児期、とくに5歳以下に発症することが多い疾患です。
近年では、手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療を適切に組み合わせた集学的治療の進歩により、多くのお子さんで治癒が期待できる病気となっています。また、腎芽腫の一部では先天異常や遺伝症候群を伴うことが知られており、WT1遺伝子や11p15領域の異常などが関与することが報告されています。両側の腎臓に腫瘍が発生する場合もあり、その頻度は約5%とされています。
症状
最も多い症状は、お腹のしこりや腹部のふくらみです。多くの場合、痛みを伴わず、偶然気づかれることも少なくありません。そのほか、腹痛、嘔吐、血尿、発熱、不機嫌などがみられることもあります。腫瘍が大きくなった場合には、周囲の臓器を圧迫することで呼吸が苦しくなることもあります。また、健診や他の目的の検査で偶然発見されることもあります。
診断
診断には主に画像検査が用いられます。まず超音波検査により腎臓の腫瘍の有無を確認し、その後CT検査やMRI検査を行うことで、腫瘍の大きさや広がり、周囲臓器との関係、血管への進展の有無を詳しく評価します。腎芽腫では腎静脈から下大静脈にかけて腫瘍が進展することがあるため、血管内への広がりを正確に評価することが重要です。また肺への転移の有無を確認するために胸部CT検査も行います(図1、図2)。
典型的な画像所見を示す場合には、腫瘍の破裂や播種のリスクを避けるため、生検を行わずに治療を開始することもあります。
図1 CT横断像(矢印の部分が腫瘍)

図2 MRI矢状断像(矢印の部分が腫瘍)

治療
腎芽腫の治療は、手術、化学療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療を基本とします。どの治療をどの順番で行うかは、病期(ステージ)や病理組織型(予後良好群か高リスク群か)に基づいて決定されます。
病理学的には予後良好群(favorable histology)と高リスク群(high-risk histology)に分けられ、びまん性退形成(diffuse anaplasia)を伴う腎芽腫、腎ラブドイド腫瘍(RTK:旧MRTK)、腎明細胞肉腫(CCSK)などは治療抵抗性が高く、より慎重な治療が必要とされています。
手術は治療の中心となる方法であり、一般的には腫瘍を含めて腎臓を摘出する腎摘除術が行われます。一方で、両側に腫瘍が存在する場合や、将来の腎機能をできるだけ保つ必要がある場合には、腎臓を部分的に残す腎温存手術(部分切除)が検討されます。
近年では、手術の安全性を高め、腫瘍の縮小を図る目的で手術前に化学療法を行う術前化学療法が選択されることも増えています。これにより、周囲の臓器や血管を温存した手術が可能になる場合があります。
日本ではこれまで日本Wilms腫瘍スタディーグループ(JWiTS)による臨床研究が行われ、米国NWTSの治療方針を取り入れながら治療成績の向上が図られてきました。現在はJCCG腎腫瘍委員会を中心に、病理分類や遺伝子異常などを考慮したリスク層別化治療の確立が進められています。
予後
腎芽腫は小児がんの中でも比較的治療成績が良好な疾患であり、予後良好群では5年生存率が90%以上と報告されています。一方で、びまん性退形成を伴う症例や、RTK(ラブドイド腫瘍)、CCSKなどの高リスク腫瘍では再発の可能性が高く、より専門的な治療が必要となります。
近年はリスクに応じた治療強度の調整や、腎機能をできるだけ温存する治療戦略が進んでおり、治療成績のさらなる改善が期待されています。










