小児外科で治療する病気

腸炎

 腸の中には,食べ物(人にとっては異物)や細菌などが存在し,それに対して人の体はいろいろな細胞(リンパ球や白血球など)や抗体をつくり,異物や細菌か ら体を守ろうとする働きを持っています.このような働きのバランスがくずれて,腸の一部または全体に炎症,出血,壊死(細胞が部分的に死ぬこと)などがおこることを腸炎といいます.

 腸炎の病因には下記に示すように多くのものが知られています.小児では,細菌やウイルスなどの感染症による腸炎が最も多く見られますが,感染以外では抗生 剤によるもの,ミルクなどのアレルギーによるものなどが比較的多く見られます.また小児外科に関係した病気では,ヒルシュスプルング病で腸炎がおこりやすいことが知られています.

1.感染症
(1)細菌(2)ウイルス(3)原虫・寄生虫(4)真菌
2.食品,毒物,薬物など
(1)過食,アルコール(2)食中毒(有毒魚介類,未熟な果物,毒キノコなど)(3)化学薬品(アスピリン,抗ガン剤,下剤,重金属など)
3.抗生物質
(1)抗生物質の直接作用,過敏反応(2)腸内の細菌の変化
4.物理的要因
(1)エックス線などの放射線(2)紫外線(3)寒冷
5.血液の流れの障害
ショック,虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん),心不全など
6.アレルギー
ミルクや食餌など
7.非特異性炎症性腸炎(ひとくいせいえんしょうせいちょうえん)
潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん),クローン病など
8.その他
腹膜炎(ふくまくえん)など

 腸炎の症状は,原因および原因疾患による炎症の種類,強さ,広がり,場所によってかなり重症度が違ってきます.急性腸炎の症状としては,下痢(げり),血 便,腹痛,吐き気,おう吐が見られます.キャンピロバクターといわれる細菌による腸炎では,少量の血便がしばしば見られますが,なかにはO-157のよう な病原性大腸菌感染によることもありますので,下痢に伴う血便が長く続いたり,血便の量が多い時は注意が必要です.また感染症の場合には発熱が見られるこ とが多いようです.

 治療は,まず下痢やおう吐などの症状を軽くするための治療(対症療法)として,吐き気止めや整腸剤,下痢止めの薬が用いられます.しかし,おう吐がある場合には,薬の服用が困難なことも多く,下痢やおう吐によって脱水症状がある場合には,点滴による水分やミネラルの補給が必要になります.特に小さな赤ちゃ んでは,下痢やおう吐によって容易に脱水になりやすいので,注意が必要です.また,感染性の腸炎では,下痢止めによって無理に下痢を止めないほうがよい場 合がありますので,自己判断で下痢止めの薬を服用することはさけるべきです.症状が長く続く場合には,対症療法と平行して,腸炎の原因を調べることが必要 になります.疑わしい原因(抗生剤やミルクなど)がある場合には,その原因を取り除く(抗生剤やミルクの種類を変えてみる)こともひとつの方法です.感染 症による腸炎の診断には,便の中の細菌などを調べる検査や血液検査を行って原因を見つけることが重要になってきます.

 急性腸炎では,内科的な治療によって比較的短期間に症状がなくなる場合が多いのですが,長期にわたって慢性的に腸炎の症状が続く場合には非特異性炎症性腸炎などを疑う必要がありますので,小児の専門医にご相談されることをお勧めします.

外部リンク

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