小児外科で治療する病気

神経芽腫

概念
神経芽腫(Neuroblastoma)は、小児に発生するがんの中で、白血病、脳腫瘍に次いで多く、腎臓の頭側にある副腎という臓器や,背骨の脇にある交感神経幹などから発生します。神経芽腫には、強力な治療を行っても治癒がむずかしいものか、手術、あるいは比較的軽い抗がん剤治療や、ときには治療をしなくても自然に腫瘍が消え治ってしまうものまで、さまざまなタイプがあることが分かっています。そのため、最初にどのタイプの神経芽腫であるかを正しく診断、分類した上で、必要最小限の適切な治療を行うことが重要です。

発生と頻度
発生要因は、多くの場合は不明であり、ほとんどの場合は遺伝ではありません。ごくまれに、ある遺伝子の突然変異が親から子へと受け継がれることがあります。
神経芽腫は乳幼児で診断されることがほとんどであり、この年齢層でかかる割合は10万人に約2人と言われています。小児がん全体の10%弱を占めています。

症状
初期の段階では、ほとんどが無症状です。進行してくると、おなかが腫れて大きくなったり、おなかを触ったときに硬いしこりが触れてわかる場合もあります。
幼児では進行例が多く、発熱、貧血、血小板減少、不機嫌、歩かなくなる、まぶたの腫れや皮下出血など、転移した場所によってさまざまな症状があらわれます(図1)。胸部から発生すると咳や息苦しさなどがみられることがあります。腫瘍が脊髄を圧迫する場合、下肢麻痺を生じることもあります。

図1 眼窩に腫瘍が転移し、目のまわりに出血を起こしている。

診断
通常の身体的診察に加え、尿検査・血液検査が行われます。神経芽腫の腫瘍細胞は、神経伝達物質であるカテコールアミンを産生します。その代謝産物であるバニリルマンデル酸(VMA)とホモバニリン酸(HVA)となって尿中に排泄されるため、尿検査でこれらの値を調べます。ほかに血液中の腫瘍マーカーである神経特異的エノラーゼ(NSE)、乳酸脱水素酵素(LDH)、フェリチンなどが高値を示すこともあるため、血液検査が行われます。
そして、腫瘍発生部位の確認や病期分類のために超音波検査やCT検査、MRI検査、遠隔転移巣の診断のためにMIBGシンチグラフィやPET検査、骨転移の確認のためにX線検査、骨シンチグラフィなどの画像検査が行われます。骨髄転移の有無を調べるために、骨髄検査も行われます。また、病理診断と分子生物学的診断のために組織生検(腫瘍の一部を切り取る検査)が行われます。
また骨髄まで腫瘍細胞が浸潤しているかを調べるために、左右の腰の骨から骨髄液を吸引して、顕微鏡による診断を行います。

病理
確定診断は摘出術や生検により採取した腫瘍組織を顕微鏡で診断して決定します。病理組織は、国際神経芽腫病理分類(INPC:International Neuroblastoma Pathology Classification)に従って分類され、神経芽腫が治癒する確率(予後)の判定に重要です。

リスク分類
神経芽腫の治療法は、リスク分類に従って選択されます。一般的には、国際神経芽腫リスク分類(INRGリスク分類)が用いられます。この分類では、以下1)~6)の組み合わせにより、超低リスク、低リスク、中間リスク、高リスクの4つのリスクグループに決定されます
1)病期(腫瘍の進行の程度)
2)診断時年齢(月齢)
3)病理分類(組織分類)
4)MYCN遺伝子の増幅
5)染色体異常
6)核DNA量(腫瘍細胞の染色体数)

治療
低リスク群では、手術で腫瘍をすべて摘出できた場合、その後は経過観察を行います。手術で腫瘍をすべて摘出できない場合には、低用量の化学療法が行われます。また、1歳未満で発症した患者さんでは自然退縮(腫瘍が自然に小さくなっていく)することもあるため、無治療経過観察が選択される場合もあります。
中間リスク群では、生検後に中等度の化学療法(薬物療法)を行ってから、腫瘍を摘出するための手術を行う治療法が一般的ですが、まだ標準治療は確立していません。
高リスク群では、腫瘍が周囲の臓器や血管を巻き込んでいることや、転移がある場合が多くあります。治療としては、化学療法を先行し、周囲の臓器をできるだけ温存した手術と放射線治療、大量化学療法と自家造血幹細胞移植を組み合わせて行います。
また、神経芽腫が再発した場合には、まだ推奨される治療法は確立していないので、臨床試験に基づく試験的治療を行うこともあります。

臨床試験
我が国では,神経芽腫の患者さんに、より良い治療を提供していくことを目的として2006年5月に「日本神経芽腫研究グループ(Japan Neuroblastoma Study Group; JNBSG)」が設立されています。このJNBSGでは、神経芽腫の患者さんに、最も効果的で最小限の副作用になると期待される試験治療を全国の病院で同じように行い、その予想が正しいかを科学的に証明・評価する臨床研究を実施しています。

治療の現状
低リスクや中間リスクの治療成績は比較的良好です。しかし高リスクの治療成績はまだ良くないため、新しい治療に活路を見出すべく、全世界的にも様々な臨床研究や治験が行われています。

外部リンク

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