小児外科で治療する病気

先天性横隔膜ヘルニア

病気の概要
胸とお腹は横隔膜という筋肉の膜で分けられています。横隔膜ヘルニアは、この横隔膜に孔があく病気です。横隔膜に孔があいていると、胃や小腸、大腸、脾臓、肝臓などのお腹の臓器が胸に入り込んで肺を圧迫するため、呼吸困難や消化管の通過障害が生じます。

病気のタイプ
横隔膜ヘルニアには、生まれつき孔があいている先天性のものと、交通事故などの外傷によって孔があく後天性のものがあります。先天性のものは、横隔膜の後方外側を中心に孔があいている胸腹裂孔ヘルニア(ボホダレク孔ヘルニア)と、前方内側に孔があいている胸骨後ヘルニアがあります。ほとんどはボホダレク孔ヘルニアで、そのうち90%は左側に発症します。病気の頻度は、日本の2013年の調査では約6000人に1人でした。先天性のものの多くは胎児期よりお腹の臓器が胸に入り込んでいますが、孔が小さいものは出生後に初めて症状がでることもあります(遅発性)。

症状
胎児期よりお腹の臓器が胸に入り込んでいるタイプは、妊娠中の超音波検査で羊水がとても多いことや、心臓や胃の位置の異常などから出生前に診断される例が多くなっています。この場合はMRI検査などを行い、胸に入り込んでいる臓器や圧迫されている肺の状態を詳しく調べます。生まれたときの重症度(病気の重さ)はそれぞれのお子さんで異なりますが、重症のお子さんは出生時に呼吸困難や血圧が保てないなどの循環不全が生じ、人工呼吸や血圧を保つための処置を要します。一般に胎児期からお腹の臓器が胸に入り込んでいるお子さんでは、胸に入り込んだ臓器の圧迫によって両方の肺がうまく育たないために重症となり、治療も大変難しくなります。これら重症例の救命率は現在でも85%程度です。一方で出生後1日以上経ってから症状が出る遅発性のものは、呼吸障害が軽度だったり、腹痛などの消化器の症状が主だったり、中には偶然発見されるものもあります。これらの軽症例はほぼ全例が救命可能です。(図1,2)

図1 左横隔膜ヘルニアの胸腹部単純X線写真

図2 先天性横隔膜ヘルニア患児の出生時腹部写真(腹部消化管が胸腔内に入り込んでいるために、腹部は陥凹している。)

軽症例の治療
胸に入り込んでいる臓器をお腹に戻し、横隔膜の孔を縫合して閉じる手術を行います。腹部を切開して行う方法が一般的ですが、孔の位置によっては胸を切開して行うこともあります。最近では、軽症のお子さんでは胸腔鏡を使用した傷の小さな手術が行われることもあります。

重症例の治療
重症例では、手術よりもまず呼吸や血液循環を保つ治療が優先されます。出生後直ちに人工呼吸器をつけて人工呼吸を行います。しかし肺の発育が悪いと肺に血液がうまく流れず、いくら人工呼吸を行っても血液中の酸素濃度が保てない状態に陥ります。肺に流れる血液を増やすためには、十分に鎮静し、高濃度の酸素を投与して、肺の血管を拡張させる薬剤や血圧を保つ薬剤を点滴します。また一酸化窒素(NO)は肺の血管を直接拡げる作用があるため、人工呼吸器の酸素に混合して吸入させることもあります。(これらの治療を行ってもなお血液中の酸素濃度が保てない場合は、施設によっては体外式膜型人工肺という装置を使用して血液中の酸素濃度を維持し、肺の発育を待つという治療が行われます。しかし人工肺の使用による救命効果に関しては、現在も評価が定まっていません。また、胎児期に診断されたもので肺の発育が非常に悪い例に対しては、胎児期に特殊な治療を行うことも試みられています。)
これらの治療により、呼吸や血液循環が安定した時点で手術を行うことが多いですが、手術時期に関しても様々な意見があり、一番良い方法はまだ分かっていないのが現状です。手術は、軽症例と同様に、胸に入り込んでいる臓器をお腹に戻して横隔膜の孔を縫合して閉じますが、重症例では横隔膜の孔が大きいことが多く、孔を直接縫合して閉じることができないこともあります。このような場合には、人工布や腹壁の筋肉を用いた横隔膜の再建が必要となります。

横隔膜ヘルニアの重症度は個人差が大きく、一概にお話しすることができません。担当の先生からの詳しい説明を受けて下さい。

外部リンク