小児外科で治療する病気

鎖肛(直腸肛門奇形)

 肛門は食べた物が消化管を通って体の外に出る最後の部分で,便を外に出すという大切なはたらきをもっています.鎖肛(直腸肛門奇形)とは,この肛門が生まれつきうまく作られなかった病気で,おしりに肛門が開いていないものから,小さな穴(瘻孔)がみられるものや,肛門の位置がずれているものまでさまざまです.出生した赤ちゃんの数千人に1人くらいの割合で発生し,消化管の先天的異常の中で最も多い病気です.生後約1か月までの新生児期に緊急手術も必要になる病気です.
 直腸・肛門は,胎児の初期には膀胱などの泌尿器系とつながってひとつの腔になっていますが,妊娠の2か月半頃までにそれぞれは分離して発育します.さらに 女児では分離した直腸と尿路の間に膣や子宮が下りてきます.この発生の途中で異常が起きると,男児では直腸と膀胱や尿道との間(図1),女児では直腸と子 宮や膣との間につながり(瘻孔)が生じることがあります.

症状
 おしりを診ただけでわかることもあり,多くは生まれたときに診断されます.出まれてすぐに体温を計るとき直腸に体温計が入らないことで診断されることがあります.お乳を与えていておなかが張ってきたり吐いたりすることから発見されることもあります.瘻孔のあるときは,男児では尿に胎便やガスが混じることがあります.女児では膣から胎便が出たり,子宮や膣に尿が貯まっておなかが腫れることがあります.幼児または学童になって,便秘や便が細いことから肛門の位置の異常に気づかれることもあります.まれに腸の穿孔を起こして腹膜炎になることがあります.

病型
 病型によって治療方針が大きく異なりますので,速やかに病型診断をします.直腸末端の位置による分類で,低位型,中間位型,高位型の3グループに分けるこ とが一般的です(図2).骨盤部の側面のレントゲン写真で,図のような3本の基準線をもうけて診断します.直腸末端が肛門部皮膚のごく近くまで届いている ものを低位型といい,皮膚より遠く離れているものはその程度の差によって,中間位型と高位型に分けられます.また,瘻孔の有無とその部位による分類もあります.

治療
 低位型では,多くの場合新生児期に根治手術を行います.女児の肛門膣前庭瘻で,膣に接して瘻孔が開口しているときは瘻孔を拡張して成長を待ち,乳児期以降に根治手術を行います.
 中間位型と高位型では,新生児期に人工肛門造設術を行います.この手術は,一時的におなかの皮膚に腸の一部を出す手術で,肛門の代わりをする目的で行いま す.人工肛門から便が出るようになり,母乳やミルクも飲めるようになります.そして赤ちゃんがある程度成長して,直腸や肛門の機能を担う筋肉が発達してか ら,おしりに肛門を作る根治手術をします.根治手術の内容や時期は,病型によってそれぞれ適切な手術術式や時期が選ばれます.根治手術を行った後人工肛門 を閉鎖し,肛門から便が出るようになります.

予後
 排便機能の長期遠隔成績では,低位型ではほぼ全例良好ですが,中間位型や高位型では高度の便秘や便失禁などの排便障害がみられるという報告があります.
 小児外科では,ただ単に救命することだけが目標ではなく,患児が成長とともに快適な学校生活や社会生活を送れるようになることが重要であると考えて診療し ています.おしりに肛門を作る根治手術が治療の終着点ではなく,おしりからきっちりと排便ができるようになることが目標です.そのために排便訓練が必要で すが,日常生活に支障がない程度の排便機能を確立するには何年もかかることもあります.この排便機能の確立のためには医療者とご家族との緊密な連携が必要 です.主治医の先生から十分に説明を受けて,よい協力体制を作るようにしたいものです.

図1 男児直腸尿道瘻

図2 男児の直腸の高さのちがい

外部リンク

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