先輩からのアドバイス-木村 健
医学は実学であり,診療は実務である.医学部では病気の本態を学び,卒後研修では治療の実際を習得する.君が何科を選ぼうと,その目標は「単独で診療のできる医師」になることだ.医学が実学たる所以である.研修を終えると,君は学んだ知験を駆使して患者の診療にあたる.これは実務以外の何ものでもない.医師の仕事を一口で述べてみよと問われて,わたしにこれ以上の答えはない. 君も承知のように,万人に一番大事なものは命だ.その大切な命を手中に預かり,その行く末を左右する医師の仕事は,モノや時間や技を売買するのとはワケが違う. 一本の血管,一滴の薬剤の扱い次第で,命は簡単に失われる.君の生涯で唯一つの間違いであったとしても言い訳無用.間違った君は絶望の淵をさ迷うことになる.医師とはこれほどに恐ろしい職業なのだ. だが,一方,鍛えた技,貯えた知験によって失われつつある命を生の側に引き戻したときの誇らしさ,喜び,充実感に勝るものはない.その感動の大きさは他に比べるものが無い.それゆえに,今日も難病,難手術に人間業の限界を超えて挑む勇気が湧いてくるのだ. 小児外科医のターゲットは先天性外科疾患である.君の知験と手技のお陰で取り戻した小さな命がこれからの70年か80年を生きていく.想像してみたまえ.君が救った小さな命は,大科学者になってノーベル賞を受賞するものもあろう.プロ野球の花形選手になるかもしれない.君と同じ小児外科医をめざすものもいるだろう. 人は皆一生を一度しか生きられない.君の一度だけの人生を,小児外科医になって次の世代の命を救う仕事に使ってみないか.小児外科医でなくて,これほどのやり甲斐を実感できる仕事はない. |
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木村 健(きむら・けん)
1963年 神戸大学医学部卒業 American Surgical Association正会員1996 先天性十二指腸閉鎖に対するダイアモンド型吻合手術,先天性気管狭窄症に対する肋軟骨グラフト根治術,全結腸無神経節症に対する結腸パッチ手術,遊離腸管を用いた腸管延長術,食道閉塞症における胸壁外食道延長術等を開発 |
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