理事長挨拶
この度、日本小児外科学会の第27代理事長を拝命しました家入里志です。これまでの多くの先輩方ならびに現在の学会員の皆様のご努力により、本学会は発展してまいりました。その舵取りを担わせて頂くことになり、身の引き締まる重責を感じるとともに大変光栄に存じます。
日本小児外科学会は設立60年を過ぎ、人間でいえば還暦を過ぎたあたりになります。今後も更なる発展を目指すことは言うまでもありませんが、一方で成熟した学会としての役割も必要になってくると考えております。少子高齢化やグローバリゼーションに伴う疾病形態の変化、医師の働き方改革など医療を取り巻く環境は絶えず変化を求められています。我々はその変化に対応しつつ、次世代の小児外科医療を創造します。
小児外科疾患のこども達とそのご家族に安心した生活を届けられるように
日本小児外科学会では1964年の学会設立以来、病気をかかえたこどもたちの外科治療を安心して任せられる良質な小児外科医の育成を続けてまいりました。先輩方の献身的な努力もあり、この60年で国内における新生児外科疾患を含む小児外科疾患の生命予後は劇的に改善し、その成績は世界トップレベルにあります。一方で小児外科疾患の診療を受けた方々の長期予後も重要となってきました。人生100年時代の到来が言われ、小児外科疾患の治療を受けたお子さんたちはその後に80年以上の人生が待っていることになります。長い人生においては成人の疾患で治療を受けることも稀ではなくなってきました。少子化が言われて久しくなりますが、小児外科疾患で治療を必要とするお子さんがいることに変わりはありません。今後も本学会では長い人生を見据えた全人的な診療を担う小児外科医の育成を行ってまいります。
日本小児外科学会の更なる発展のために
専門医・指導医の育成システムの改修:出生数の減少や少子化により、現在の専門医・指導医の育成システムも変革の必要性を迫られています。質の高い医療を提供できる小児外科医を育成するという大前提のもと、小児外科医を志す若い医師にとって十分な修練が可能な育成システムを構築します。
関連学会との連携強化による政策提案:日本小児外科学会は日本外科学会を基盤学会とする外科のサブスペシャルティ領域となります。専門医の修練は外科・小児外科で行いますが、診療では小児科や産婦人科を含む他領域の診療科との連携が重要となってきます。基盤学会である日本外科学会はもちろんのこと、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本小児血液・がん学会、日本小児泌尿器科学会、日本小児救急医学会、日本小児期外科系関連学会協議会などの関連学会・協議会と連携して、こども家庭庁などを通じてよりよい小児医療の実現のための政策提案を行ってまいります。
研究の推進:現在の診療では満足な治療効果が得られない小児外科疾患も多く存在します。これらの疾患の治療成績の向上に対しては基礎・臨床の両面での研究継続が重要となってきます。学会としてはALL JAPANでの臨床研究や海外を含む多施設共同研究などにより、最新のエビデンスを創出するともに新規治療につながる研究を推進したいと考えています。若手小児外科医を対象としたResearch Grantを創設して研究をEncourageします。
国際化の促進:COVID-19のパンデミックが示したように、いい意味でも悪い意味でもグローバリゼーションは避けられない時代に入っています。国内では当たり前だと考えている手術や治療が必ずしも世界レベルの標準治療とは限りません。日本人の良さであるきめの細やかな診療を継承しつつ、海外の良い部分を取り入れる必要性があります。国際学会で口演発表を行う若手小児外科医のためにトラベルグラントを創設し、国際交流を促進します。
最後に、前述の目標を達成し、今後も本学会が発展していくためには次世代の若い力が必要不可欠です。本学会では毎年サマースクールを実施して、医学生や臨床研修医の皆さんに小児外科を知っていただく機会を設けています。多くの若い方の参加をお待ちしています。
小児外科ではしばしば生まれつきの病気のこどもたちの臓器を造る手術を行いますが、それは同時にこどもたちの未来を創ることにつながると考えています。この素晴らしい小児外科医療を一緒に担ってくれる若い先生方が一人でも多く仲間に加わることを期待しています。
2025年 夏
一般社団法人日本小児外科学会
理事長 家入 里志
(鹿児島大学学術研究院小児外科学分野 教授)













