食道アカラシアは小児期での発症はごく稀な疾患である.故に治療法や適切な治療時期については未だコンセンサスが得られていない.今回,高解像度食道内圧検査(HRM)でシカゴ分類type IIと診断し,治療には内視鏡的バルーン拡張術を選択し,段階的に30 mmまで拡張することによって十分な治療効果を得た小児の症例を経験した.症例は8歳女児.繰り返す就寝時の咳嗽と嘔吐を契機に食道アカラシアと診断された.シカゴ分類type IIと診断し,最も治療反応性の良い群と考え,治療は最も低侵襲な内視鏡的バルーン拡張術を第一選択とした.複数回に分けて段階的に30 mmまで拡張を施行した.治療後は症状は消失し,食道造影検査でも食道径の減少が確認できた.Eckardt scoreは治療前4点から治療後0点と改善を認めている.現在,術後約2年が経過しているが再発を認めず,追加治療は不要な状態である.
症例は12歳女児.3か月前から腹痛,便秘,嘔吐を繰り返すようになり近医小児科にて経過観察されていたが,腹痛・嘔吐症状が急激に増悪し腸閉塞が疑われたため当科へ紹介受診となった.CTにて空腸の壁肥厚と狭小化,口側腸管の拡張,closed loopを認め,急性腹症と判断し緊急開腹術を施行した.虚血性変化はなく,空腸の広範囲に浮腫,壁肥厚,拡張及び大網を巻き込んだ腫瘤形成を認めた.同部を切除し,敷石状病変・縦走潰瘍を認めCrohn病による消化管狭窄と術中診断した.合併症を回避するために,機械吻合ではなく正常な粘膜部で手縫での端々吻合を行い,吻合部口側に減圧チューブを留置し手術を終了した.病理学検査にて非乾酪性肉芽腫を認めCrohn病と最終診断した.術後経過は良好で,14日目にインフリキシマブを開始し,32日目に退院した.小児の本症の未診断例に対し緊急手術を行う際は,再手術や手術に起因する瘻孔形成を念頭に術式や合併症対策を検討すべきである.
症例は13歳,男児.10歳時に血便を主訴に来院し,大腸内視鏡検査で,全大腸炎型潰瘍性大腸炎と診断した.プレドニゾロン導入後に寛解と再燃を繰り返した.アザチオプリンによる治療を開始し,一旦寛解したものの,再び腹痛と血便が出現したために入院加療となった.入院1日目より頭痛の訴えあり,入院8日目には左上下肢の痺れと脱力を認め,頭部CTおよびMRI検査で脳静脈洞血栓症と診断した.発症同日より上矢状静脈洞血栓症に対してヘパリン投与で治療を開始し,脳浮腫軽減目的としてマンニトールの投与も開始したが,改善を認めず,痙攣が出現した.発症後6日目にカテーテルによる血管内治療で血栓除去術が行われた.血栓除去後は痙攣を認めず,麻痺症状の軽快および頭痛の消失を認め,発症から50日目に退院となった.小児の潰瘍性大腸炎患者では,脳静脈洞血栓症を合併した報告は稀であり,文献的考察を加え報告する.
症例は女児.日齢18に腹部膨満が出現し,当院紹介となった.単純X線写真で腹腔内遊離ガスを認めたため緊急手術を施行し,回腸末端の消化管穿孔に対して単純縫合閉鎖を行った.術後1か月時にイレウスを認めたが保存的に軽快した.その後7か月時に下血を主訴として来院し,血液検査ではHb 7.5 g/dlと貧血を呈し,造影CT検査で回腸末端に著明な造影効果を認めた.腸管血管腫からの出血を疑い,入院翌日に試験開腹術を施行した.回盲弁から口側15 cmの回腸と腸間膜に血管腫を認め,回盲部切除を行った.病理診断は乳児血管腫であった.術後10日目に自宅退院し,現在まで再発を認めていない.乳児血管腫は通常生後1週頃から増生し始め,生後10か月頃までに増生のピークを迎えると言われている.本症で見られた消化管穿孔の発生部位は,その後に判明した血管腫の部位と一致しており,穿孔の原因として血管腫が関与している可能性が考えられた.
交叉性精巣転位症(以下,本症)は,片側精巣が正中線を越えて転位し,対側の腹腔内や鼠径管・陰囊内に停留する比較的まれな疾患である.今回,腹腔鏡により外科治療方針を決定した本症を経験したので,報告する.症例は10か月,男児.1か月健診で左非触知精巣を指摘され,MRI検査にて右陰囊内と右鼠径管内に精巣を一つずつ認めたため,本症が疑われ,手術加療を行った.腹腔鏡で観察すると右内鼠径輪の開存を認め,ヘルニア囊内の右陰囊底部および右内鼠径輪近傍の腹腔内にそれぞれ精巣を認めた.腹腔内精巣の精索は,左内鼠径輪近傍から膀胱前面を横切り,腹腔内精巣へと連続していた.左精巣を左内鼠径輪から下降させるには精索の剥離範囲が広いため,両側精巣を右鼠径部創から導出し,精索のより長い右精巣を陰囊中隔を通して左陰囊内に固定した.左精巣は右陰囊内に固定した.術後6か月の現在,明らかな精巣萎縮や位置異常は認めていない.
中部尿管狭窄症(congenital midureteral stricture: CMS)は稀な疾患で,約半数に他の尿路異常を合併するため尿路の詳細な評価が重要である.今回我々は,新生児期に急性腎後性腎不全に陥った左多囊胞性異形成腎および右CMSの機能的単腎症例に対し,段階的な治療を行い根治術に至ったので報告する.症例は,胎児期に右水腎水尿管を指摘され在胎38週に出生した男児.日齢7に,急性腎後性腎不全を発症し経皮的腎瘻造設術を施行した.術後の腎瘻造影で右CMSと診断し,腎瘻管理のトラブルを回避する目的で日齢38に下腹部に尿管皮膚瘻を造設した.9か月時に尿管皮膚瘻と同一創にて右尿管膀胱新吻合術を施行した.CMSでは新生児期に急速な腎機能悪化が生じる可能性があるため十分な注意が必要である.特に機能的単腎の場合は,長期的予後を見据え,早期の外科的治療を計画すべきである.